momomon

個人メモ

ホスト×ウェイター②

――――――

「っ、い、篤(あつし)さん…止めて下さい…っ」

まるで弱りきった子猫が鳴くような、か細く震える声。
それでも、明かりが落ちて誰も居なくなったホールには、驚く程反響した。
俺は先程まで接客をしていたソファーの上で、横たわる伊央(いお)の下腹部に顔を埋める。
丁度、ウエストを絞めるベルトの辺り。
鼻から思い切り息を吸い込めば、伊央の石鹸の様な匂いが俺の欲求を刺激する。
俺は自分のネクタイを緩めて、上着をテーブルの上に脱ぎ捨てた。

「なぁ、伊央、早く犯したい…」
「や、です…っ」
「嫌じゃない」

身を守る様に丸まる伊央の腕を掴んで、無理矢理身体を開く。
薄暗い中に見える伊央の泣きそうな顔。怯えた顔。
身体、震えてる。
毎日の事なのに、まだ慣れないんだ。
そりゃ怖いよな。
可哀想な伊央。
可哀想

カワイイ。

「伊央、伊央、伊央っ」

仕事柄、周りには積極的な奴ばかりで、伊央の大人しさは新鮮だったのかもしれない。
もしくは、最初から伊央の様な奴が好きなタイプだったのかもしれない。
理由は分からない、けど、伊央は、俺を酷く惑わせた。

ホスト×ウェイター①

「ねぇアツシ、アツシはどんな子が好きなの~?」
「いちいち聞くなよ、決まってるじゃん。…お前」
「あはは、やだぁ、嘘ばっか~!」

あぁ嘘だよ、と言えたら、どんなに気分が良いだろうか。
毎夜女達が男を求めてやって来るホストクラブ。
酒と香水とタバコの混じった濃密な匂いに、鼻を摘まみたくなる。
気持ち悪くなるまで胃の中に酒を流し込み、その口で女を喜ばせる為の嘘を吐く。
No.1という地位に居たものの、感じるのはいつも空虚感だけだった。

俺はテーブルの上に置かれた空のボトルを持ち、近くに居たウェイターを呼びつける。
彼は困った顔で辺りを見回し、手が空いている奴が居ないのが分かると、渋々といった表情で俺のテーブルにやって来た。

「これ、邪魔だから持って行って」
「はい…」

ボトルを渡す時に、わざと手に触れる。

「!」

一秒にも満たない時間だったが、彼はそれだけでビクつき、ボトルを握り締めた手を慌てて引いた。

「他に、何か…」
「今は良い。また呼ぶから」
「…分かりました」

逃げる様に去っていく後ろ姿をうっとりと眺めながら、彼の手の感触が残る指を唇に押し付ける。

(可愛い…)

腕時計を確認するも、閉店まであと2時間もある。

(早く、触りたい)

あぁ、早く

俺を癒して。

死神×自暴自棄 リスカ・流血表現⑨

(そう言えば、最近リスカとかしてないな)

風呂で体を洗っている最中にふと自分の腕が目に入り、すっかりとかさぶたが無くなってみみず腫の様になった複数の傷跡を見ながら思う。
そう考えたら、今すぐリスカしなければ、と、強迫観念に駆られる事も無く。
むしろ、あの行為は一体何の為にやっていたのだろうかと、分からなくなってしまった。

(死神の世話で忙しいもんな)

世話らしい事をしている訳では無いのだが、そんな事を考える余裕すらないくらい、俺の頭の中には、いつもアイツが居る気がする。

(…は…はは…)

何だか、酷く懐かしい感じがするこの胸の苦しさは。
あぁ、どうして。
あの時に裏切られて、こんな思いをするなら二度とこんな感情を持つものかと決意したというのに。
俺はまた、
懲りもせず。




――――――――――

夕食用にと、近くのスーパーで出来合いの惣菜やレトルトのご飯なんかを買い込んで部屋に戻ってみると、死神が床の上に仰向けに横たわっていた。
俺はぎょっとして、荷物を放り投げながら死神の元へ駆け寄る。

「おっ…おい!!」
「…帰って来たのか」
「どうしたんだよ!具合悪いのか!?」
「俺には具合が悪くなる、なんて体調の変化は元々ない」
「じゃあ何で倒れてんだよ!」
「人間は夜になると、こうやって睡眠を取るだろう」
「あ、あぁ…」
「そういう事だ」

何がそういう事だよと頬のひとつでも叩いてやりたかったが、死神が倒れている理由を察してほっと息を吐いた。
多分これは今、人間の睡眠という行動を模倣しているのだろう。
いつだったかも、テレビに映っていたラジオ体操を見ながらたどたどしく真似ていた事があったし。

「人間達のいう夢とはどういうものなのだろうな。こうやって目を閉じても、俺はその世界へはいけない」

言い、死神はゆっくりと瞼を閉じた。
瞬き以外で目を瞑った死神を見るのは初めてだったから、その違和感に何だかムズムズする。
しかし、外国人の様な、色素の薄い、長い睫毛が影を落とすその様はとても綺麗で。
自分の心臓の音が徐々に大きくなっていくのが分かる。
それを必死に誤魔化す様に、俺は顔を背けた。

「…本当は人間に生まれてみたかった。…他の死神には、言えないが」
「……死神の癖にそんな事思うのかよ」
「前にも言っただろう。俺は本来死神が持っていてはいけない思考を持っている事があると」
「……人間なんて、ろくなもんじゃねぇよ」