momomon

個人メモ

先祖返り×幼なじみ ①

三百六十度を緑で囲まれた、どこにでもある様な山。
車が危なかしくすれ違える程度の道路は通っているものの、何時間経ってもそこを行き来する人間の姿は確認出来ない。
それもそのはずで、この山の一帯は、ある一族の所有物であり、外部の者は立ち入りを禁止されていた。
そんな、外の世界から切り離されたこの山中にも、探せばぽつりぽつりと家が建っている。
洋館に平屋に別荘の様な邸宅に、と、統一性はないものの、どの家も己の財力を誇示する様な立派な佇まいだ。
そんな中でも、特に圧倒的な規模を誇る日本家屋が、山の奥に隠れる様に存在していた。
いや、隠れる様に、ではなく
本当に、隠してあるのだろう。
俺はそこで、使用人として働いていた。


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漫画やドラマでしか見たことがないような高く豪勢な壁や門を抜けると、木のアーチが出迎えてくれる。
山のあちこちに生えている木とは違い、わざわざ取り寄せてここに植えた貴重な樹木らしい。
林を抜けるとようやく本邸が見えて来る。
枯山水の砂利庭、池には錦鯉、遠くからは鹿威しの音。春には素晴らしい花を咲かせる桜に梅に白木蓮。
本邸の先には川みたいな所もあって、小さな橋まで掛かっている。
この屋敷のすごい所を上げていくと切りが無いが、一言で言えば京都の美しい所を集めて並べた様な、そんな雰囲気だ。
この家の敷地だけで町ひとつ分の面積があるんじゃなかろうかと考えずにはいられない。
見て回る分にはとても素晴らしいだろうが、そんな所を毎日掃除しないとならない身としては、とても憎らしい。

「おはようございます」
「おはようございます」

使用人の控室に入れば、夜番だった使用人達が既に何人か帰り支度を始めていた。
俺は、壁際にずらりと並べてある箪笥の中の自分専用の引き出しから、使用人の制服である紺色の着物を引き摺り出し、身に纏う。
近くにいた、年配の庭師に、今日はどうでしたかと問い掛けると、いつも通りだよと苦笑いが返って来た。

(昨日より掃除する所が少ないと良いのだけど)

着替え終わり、さぁ仕事に入るかと意気込んだ矢先、どこか遠くから聞こえた硝子の割れる音に、俺のヤル気は早速削がれてしまった。
その音に、周りの人達は誰一人驚かない。あぁまたかと溜め息を吐く人ばかりだ。
俺も俺で、冷静なまま廊下に出れば、目の前を中年の使用人女性が数人慌ただしく通り過ぎて行った。