momomon

個人メモ

先祖返り×幼なじみ ③

この一族は、代々から商売でも家系でもとにかく繁栄を続けて来た。
会社を興せば、数年で誰もが名前を知るような大企業になり、子供が出来れば頭脳明晰運動神経抜群容姿端麗。
まるで神から一心に愛されているかの様な血筋。
一族にとってその神とは、他の誰でもない“稔示様”だ。
選択を求められた時、彼が示した方を選べば必ず成功する。
彼の助言に従えば、それは必ず幸福へと繋がる。
まさに神の成せる技だった。
彼の名前でもある“稔示”は、そんなチカラを持った者に代々受け継がれている名前だ。
“稔示”の名前を継承する人物であるかどうかの見分け方は簡単。
当代の稔示様が亡くなって十二年後の七夕の夜、一族の中に、次の稔示様となるべきチカラを持つ男児が産まれてくる。
七夕は、初代の稔示様が産まれた日らしい。
稔示様は、名前だけでは無く、生を受けた日までをも継承するのだ。
そんな特別な彼に何かあっては一大事だと、危険の少ないこんな山奥に家を構えているのだろう。
この山に入れるのは、稔示様と同じ血を持つ人間だけ。
使用人はもちろん、庭師も郵便配達員も警察官までも。
その中でも、この山に住居を置けるのは、より濃い血筋の者だけだった。
俺も一応稔示様と同じ血が流れてはいるが、あまりに血が薄くてほぼ部外者と変わらないから、山の外に家がある。
まぁこんな何も無い山奥に住めと言われても困るが。
ただ、だからと言って、皆が皆稔示様を熱心に崇拝している訳ではない。
狂気的なまでに崇め立てているのは血の濃い者達だけで、俺みたいな下っ端達は、そんな彼等を冷ややかな目で見ている事の方が多かった。
同時に、稔示様に同情を感じずにはいられない。
大事に大事にと育てられた彼は、殆ど山の外には出た事がない。出してもらえないのだ。
娯楽らしい娯楽も無く、性処理の際は本家のお偉いさん方が厳選に厳選を重ねた美女が宛がわれる。
詳しくは知らないが稔示様の意思はほぼ反映されていない様だった。
そんな窮屈な環境で育てば、こんなひねくれ者になるのも不思議な事では無いのかもしれない。

「ちょっと貴方!」
「…はい?」
「ぼーっと突っ立ってないで早く破片を片付けて頂戴!」