momomon

個人メモ

先祖返り×幼なじみ ④

使用人の中でも上位に君臨する老女が、俺に向かってヒステリー気味に叫んだ。
はいはいと心の中で返事をしながら稔示様の近くに歩み寄るが、稔示様が退いてくれる気配が全く無くてかなりやりづらい。
埃が立ったら立ったでお局さん達に怒鳴られるのだろうし。
俺は周りにバレない様に溜め息を吐くと、とりあえず稔示様から離れた位置から掃除を始めた。

「失礼します。埜重(のえ)様がいらっしゃいました」

俺が床を掃き始めてからすぐ、別の使用人が俺達の前に顔を出し、言いにくそうにそう告げた。
埜重という名前に一番に反応したのは、稔示様だった。
先程まで石の如くその場から動かなかった彼が、今にも飛び上がりそうな勢いで立ち上がる。

「こんにちは、お邪魔します」

若い使用人に遅れて顔を覗かせたのは、上品な雰囲気を全身に纏わせた、育ちの良さそうな青年。
細い体をくるむ鴬(うぐいす)色の立派な着物が、よりその品格を強調しているかの様だった。
彼は、部屋の中にいる使用人達を一通り見渡すと、深々と頭を下げる。
彼が現れた途端、あんなに騒がしかった使用人達が一斉に口を閉ざした。
代わりに声を上げたのは、稔示様だ。

「今日は昼前には来るって言っただろ!今まで何してたんだ…っ!!」
「ごめん。習字教室の掃除してたら、思ったより時間使っちゃって」
「……」
「ごめんってば」

稔示様は、足早に埜重さんの目の前まで歩み寄ると、険悪な面持ちで埜重さんを見下ろす。
埜重さんは怯む事なく稔示様の目を一直線に見つめているが、それが余計に周囲を不穏な空気へと沈めていった。
しかしその重苦しい空気は、一瞬で色を変える事になる。

「埜重…っ」
「…っ、あ…稔示…こんな所で…ん…」

稔示様が埜重さんの腕を荒々しく掴んだかと思えば、瞬きをしている間に二人の唇は重なり、隙間から見える赤い舌が卑猥に蠢く。
埜重さんは嫌だ嫌だと首を横に振るが、稔示様に強く抱き締められた体では、抵抗らしい抵抗も出来ない様だった。
突然の事に皆ぽかんと口を開けていたが、一向に終わらない激しい接吻の連続に、一人、また一人と、顔を背け始めた。