momomon

個人メモ

死神×自暴自棄 リスカ・流血表現②

元々両親とはそれほど仲が良く無かったから、家族を捨てるのにそれほど躊躇は無かった。
リュックに必要最低限の荷物を詰め、ありったけの金と通帳を持って家を飛び出した。
これからは彼と二人きりで生きていこう。
俺達なら大丈夫。
焦る身体。
切れる息。
彼のアパートの前。
玄関の扉は開いていて、全く不用心なんだからと小さく笑いながら、室内へと足を踏み入れる。
テレビの音。
彼と抱き合ったベッドの上。
見知らぬ女と抱き合う彼の姿。
あられもない下着姿の女は、俺を見て悲鳴を上げる。
彼は俺に視線を向けると、眉間に皺を寄せ、非情に言い放った。

『少し遊んでやっただけなのに、お前のせいで散々だ。二度と顔も見たくない』

彼は、俺を見て怯える彼女の細い身体を抱き締める。
あんなに優しかった彼の瞳には、俺に対する憎悪と恐怖の色が揺れていた。
俺はふらふらと、その場から後ずさる。
その時、視界の隅に、彼のお気に入りのギターが映り込んだ。
俺は衝動のままにそれを掴み、この世の者とは思えない声を上げながら二人目掛けてそれを振り上げた。
━…そこからの事は、覚えていない。
気付いたら警察官に囲まれていて、体中のあちこちが痛かった。
ドラマでよく見る様な取調室で、怖い顔をした刑事さんが俺に『彼女も彼も怪我はしているが軽傷だ』と言っていた様な気がする。
何故こうなったのか、それは事前に彼の方が説明してくれていたらしい。
彼の話によれば、俺は彼のストーカーで、俺が一度で良いから抱いてくれとしつこく迫ったので、優しい彼は一度だけ関係を持った。
そして俺は彼と付き合っていると思い込んだまま、彼の部屋に侵入。そこで彼と彼女の情事を発見し、逆上。今回の騒動に至る。
あぁ随分と、ドラマの様なシナリオに書き換えられたものだ。
この場で俺が、いや違う、俺達は愛し合っていたんだと声が枯れるまで主張しても、第三者にとってそれは頭のおかしいストーカーの戯言に過ぎない。
あんなに何度も体を重ねた事も、愛していると囁いてくれた事も、全て、嘘になってしまった。
嘘に、されてしまった。

「う…っ、うぅ…っ」

彼と俺の気持ちの重さは、最初から、釣り合っていなかったのだ。

俺は、あまりに幼かった。

幼くて、愚かだった。


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