momomon

個人メモ

吸血鬼×医者(声のみ)②

威圧感のある巨体のオヤジと酒臭い厚化粧のババァの夫婦。
血液の相性が良いからと、小さい頃からその夫婦のババァの方から血液の提供を受けていたのだが、最初からアイツらは頭がおかしかった。
俺がババァから血を吸っている場面に出会そうものなら、オヤジは途端に嫉妬の炎を燃やして、俺の首根っこを掴み床に放り投げたり壁に叩き付けたり。
ババァはババァで気持ち悪いくらいに色気付いてベタベタベタベタとよく俺の体を触っていた。
暴力を振るわれたり性的虐待を受けた後に、二人は必ず『この事を誰かに言ったらお前の人生をめちゃめちゃにしてやる』と、俺の顔にナイフを押し付けながら言った。
俺の両親は外面の良いこの夫婦のことをすっかり信用しきってしまっていたし、仕事が忙しい両親とは元々そんなに顔を合わせなかった事もあり、全く俺の異変に気付いてはくれなかった。
元々仲も良くなかったから、助けを求めようとも思わなかったが。
夫婦の暴力はゆっくりとエスカレートして行き、俺が中学校入学と同時に寮へ入る頃にはピークを迎えた。
殴られて歯は欠ける、痣は治る前に新しいものが上書きされる、ババァには毎日の様に性器を弄ばれ、無理矢理変な薬を飲まされ勃起させられた。
血は欲しかったが、耐えきれない。
俺は中学校卒業と同時に、そいつらをめちゃくちゃに殴って家を飛び出した。
夫婦から奪った数十万円を懐に詰め込んで、丁度ホームに止まっていた電車に、行き先も確認せずに飛び乗った。
それから今日まで、ずっと家には帰っていない。
大体は、公園や廃虚で夜を過ごし、猫や犬や動物を見つければそれを捕まえ血を吸った。
しかし動物は、体が小さい分、自分の求める量を吸い取ってしまえば、簡単に殺してしまう。
だから、毎日一口二口か、どうしても我慢出来ないときは何匹も動物を捕まえて吸血行為を繰り返した。
だが人間よりも摂取する栄養が少ない動物の血では、いくら吸っても満たされなかった。
しかし、どうしても、人間に頼るのは嫌だった。

(面倒な体、生まれ変わったら、もっとマシな人生になるだろうか)

ゆっくりと瞼が落ちていく。
視界はもう何も映さない。
耳も、モスキート音の様な耳鳴りばかりしか聴こえなくなってしまった。

「…どうしたの」

そんな中、一瞬誰かの声が聞こえた気がしたけれど
目を開けて確かめる気力も体力もなくて、ただただ自分の体が動かなくなっていくのを他人事の様に感じていた。



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