momomon

個人メモ

死神×自暴自棄 リスカ・流血表現⑥

 
 
なんて理不尽な。こっちの都合はお構い無しなのか。
その後、怒鳴り散らしてみたり玄関から外に放り投げてみたりしたけれど、死神はどこからともなくまた俺の部屋に戻って来た。
そんないたちごっこを繰り返しているうちに眠ってしまったのだが、目を覚ましてもやはり、そいつはそこに居た。

「頭いたい…」
「願い事は決まったか」
「だから無いって…」

慣れって恐ろしい。
俺の命を付け狙う死神なのに、恐怖心を飛び越してうざったく思ってしまっているのだから。
俺は一度大きな欠伸をし、着ているTシャツに手を掛ける。
胸元まで捲り上げた所で、痛いくらい肌に刺さる視線に気付いた。

「……ちょっと、出て行ってよ」
「お前の願いを叶えるまで俺はここを離れられない。昨日も言った」
「じゃなくて!俺今から着替えるんだよ!」

死神はきょとんとした顔(と言っても表情は全く変わらないけど俺にはそう見えたって話)で俺の顔を見つめる。

「気にする事は無い。俺達はお前達に近付きやすくする為に人間の形をしているだけであって、人間の持つ喜怒哀楽等の感情は持ち合わせていない。ましてや裸体を見て劣情を催す事など無い」
「だとしても気になるものは気になるんだよ!ほら!さっさと出ろ!!」

俺は死神の背後に回り込むと、その背中をぐいぐいと押して部屋の外へと追い出した。
昨夜も思ったが、死神の体は冷たい。服の上からでも分かるくらいに。
まるで死人の様で、少し、気持ちが悪い。

「俺が出て行くまで入って来るなよ!」

俺は死神の返事を待たずに、勢い良く扉を閉める。
ああもう、朝から大声出してふらふらする。ただでさえ低血圧なのに。

(……こんなに口を動かしたのはいつぶりだろう…)

寝間着から部屋着に着替えながら、そんな事をぼんやり考える。
こんな事になる前は、友人達からお前は喋り過ぎだとよく言われたものだけど。
あんな事があって、ここに来て、ずっと一人きりだったから、こんなに誰かと言葉を交わすのは大分久しぶりな気がする。

(楽しくお喋りってわけじゃないけど)

ふぅっと一度溜め息を吐き、部屋の外へ出て見れば、死神は扉の前に大人しく突っ立っていた。躾ようと思えば、ちゃんと言うことを聞くようだ。

「願い事は決まったか」
「…だ~か~ら~」

それから俺と死神との奇妙な共同生活が始まった。