momomon

個人メモ

王子×シンデレラ シンデレラパロディ⑥

俺はベンチに座り直し、乱れた髪やドレスを急いで整える。幸いにも、胸に詰めた綿の塊は崩れる事なく形を保っていてくれていたが、カツラの方は鏡が無い事には確認出来ない。
今が夜で、辺りにはランプが灯ってはいるが、庭の隅にあるこの場所は薄暗いのが幸いか。
王子様の方に背を向け、顔を見られない様に俯く。

「あ…あの…わたくしあと少し風に当たってから戻りますですわ…。何だか酔っちゃったみたいでほほほ」
「そう。なら私も一緒に」

言い、王子様は触れ合う事が出来るくらい近い位置に腰を下ろした。
おいおい王子様空気読んでくれよと心の中で叫びつつ、俺は一層深く顔を伏せる。

「…あ、あの…主役の王子様が舞踏会に居なくて大丈夫ですか…」
「ん、すぐに戻るから大丈夫だよ」
「はぁ…」

なら今すぐ戻ってくれよ、なんて口が避けても言えない。
ただ悪戯に沈黙の時間が流れ、これは俺が舞踏会に戻った方が早いのでは無いかと思い始めた頃、王子様が、ふぅっと疲れた様な溜め息を吐いた。
その溜め息に連れられて、王子様の口から声が漏れる。

「本当は、苦手なんだこういうの。父がそろそろ伴侶を迎えろと口煩くて、色々見合い写真を持って来てね。それならせめて、自分で相手を見つけたいと思ったんだけどね」
「…はぁ…」

どういうわけか俺は今、王子様の身の上話を聞かされているみたいだ。
あんな大雑把な条件でお嫁さんを決めるなんて適当な人だなと、少し思っていたんだけど、王子様も王子様で色々大変なようだ。

「…あんなに綺麗な人ばかり百人も居るんだから、一人くらい王子様の好みの人がいると思いますよ」
「そうかな。でも、俺が相手の事を好いても相手が俺の事を好きになってくれるとは限らないよ」
「そんな事…。みんな、王子様が好きだからこそこの舞踏会に来たんですよ。王子様に好いてもらえたら、そんな幸せな事は無いと思います」

まさか、平民の俺が王子様を励ます日が来るとは。
でも、王子様もやっぱり人の子なんだな。臆病になったり、不安に思ったりする事があるんだ。
ちょっと親近感湧いたかもしれない。
少し警戒心が緩み始めた頃、首筋に暖かい物体が触れ、びくりと体が跳ねる。
伏せていた顔を上げて見れば、王子様の手が俺の首へと伸びていて、そのまま優しく撫でる様に頬へと上って来た。

「えっ、えっ…!?な、なんですか…」
「…君も?」
「……はっ?」
「君も、俺が好きだと言ったら受け入れてくれるの?」

その綺麗な指で顎を掴まれ、王子様と視線が交わる様に持ち上げられる。
ゆっくりと王子様の顔が近付いて来て、まさかとは思ったけれど、それがキスに向かう行為だと気付いたのは、王子様の唇が俺の唇に触れてからだった。