momomon

個人メモ

王子×シンデレラ シンデレラパロディ③

 
 
(う…っ、死んでしまいたい…)

まさか齢十八にして女物のドレスと靴を身に付ける事になろうとは。
化粧は顔に何か貼り付いてるみたいで気持ち悪いし、ウィッグも何だか、頭に他人の毛が乗っている様で落ち着かない。
自分勝手な義母義姉に無理矢理送り出された俺は、半ばやけくそで舞踏会へとやって来た。
実は郵便配達の仕事で城の門の前までは何度も来たことがあるのだが、門の内側に、ましてやこんな城のど真ん中に入る事になるなんて夢にも思わなかった。
目が眩むほどに高い天井に、見たこともない装飾品や絵画があちらこちらに飾られていて眩い。
ホールには百人以上の人間がいるはずなのに、それでも大分広く思えた。
しかしさすが何万人の中から選ばれただけあって、周りの女性達は美しい人ばかりだ。選考基準は本当に性格重視なのかと疑いたくなる程。
俺も男の端くれなので、あちらこちらから香る女性の匂いに、ドキドキしてしまう。
上品なクラシックが流れる中、皆楽しそうに談笑している。
王子様もどこかで女の子と話しているのだろうか。
舞踏会が始まる時に壇上で挨拶しているのを見てから一時間程立つが、それ以降姿を見ていない。

(百人もいるんじゃ、声を掛けることすら難しそうだな…)

その前に、声を出せば男だとバレてしまうだろうに。
一体俺は何の為にここまで来たのだろうか。
さっきからテーブルの上にずらりと並んだビュッフェ式の食事を片っ端から食っているだけだ。
見た事もない料理ばかりであったが、国お抱えの料理人達が作っただけあってどれもすごく美味い。
持っては帰れない様だからせめて腹一杯になってから帰ろう。
もう俺の頭の中は、王子様の事より、目の前の御馳走をどれだけ沢山食べて帰れるかという思いで埋め尽くされていた。

「それ、僕にも貰えますか」
「んあ?あぁ、どうぞ…」

片っ端から料理をよそっていく俺の背後から、人の声。
距離的に俺に話しかけているのであろうと思い、溢れんばかりに皿に積み上がった料理を片手に振り返れば。

「さっきからずっと食べてますね。お腹が空いてるの?」
「へ?」

眩しいくらいに真っ白なタキシード。しかしその純白の美しささえ霞んでしまう程の高貴な王子の微笑みが、俺の目の前にあった。