momomon

個人メモ

王子×シンデレラ シンデレラパロディ②

「な、何言ってんだよ!せっかく選ばれたのに!」
「わたしは運命の人と出逢ったの!あの人に比べたら王子なんて牛の糞だわ!」
「わああああ!何て事言うんだ!!!」

つい最近まで、王子をオトしてやるとヤル気満々だった義姉の態度が180度変わったのには理由がある。
実は先日、買い物の途中に馬車に轢かれそうになった義姉を、近くに居た大工が助けてくれたのだ。
筋肉隆々の腕、陽に焼けた褐色の肌、男らしく刈り上げられた髪、女の本能をくすぐる汗の匂い。
そんな、王子とは真逆のたくましい男の姿に、義姉はすとんと恋に落ちた。
しかしそれならそれでもっと早くに言ってくれれば良いものを。
何も舞踏会当日になって。

「そんな事言って…、せっかく百人のうちの一人に選ばれたのにドタキャンはまずいよ…」
「うるさいわね、そんなに行きたいならアンタが行けば!」
「はぁっ!!?」

そんなこと出来るわけがないだろう。
しばらく説得を続けたものの、義姉はベッドの上に寝転がり、運命の相手だと断言した彼の写真を見つめながら憂いのため息を漏らすばかり。
義姉は確かに顔はよろしいが性格がめちゃめちゃだ。他人の前では完璧に猫を被っているが。
これなら舞踏会に行かない方が王子様の為じゃなかろうかとさえ思えてくる。
しばらく俺が一方的に義姉を諭す時間が続くが、不意に開いた部屋の扉にそれは遮られた。

「ねぇ、ドレスなんだけど、やっぱりこっちが…」
「義母さん!義姉さんが舞踏会に行かないって言うんだ!」
「……!なっ、なんですって!?」

数時間後の舞踏会に備え、義姉の為にドレスを準備していたのだろう。
きらびやかなドレスを手に持った義母が、部屋へと入って来た。
俺が一通り事情を話すと、義母は顔を伏せ、悲しそうにため息を吐く。

「そう…仕方無いわね…。女は心から愛する人と一緒になった方が幸せだものね…………じゃあアンタが行きなさい。ドタキャンなんて打ち首ものだわ」
「えぇっ!!?それなら義母さんが行けば良いだろ!!」
「何言ってるの!私が愛せるのはお父さんだけよ!!」

この義姉にしてこの義母有りだよ。
そもそも彼女達の中で俺が男だということは忘れ去られているのか?

「ほら早く着替えなさい!結婚は無理でもお近づきにはなって来なさいよ!」
「やっ…やだよ!無理だよ俺男だし!」
「大丈夫よ、アンタはチビだから私のドレスだって入るわ」
「うわっ…!待ってっ…!」
「お母様、ウィッグはどこにやったかしら」
「多分クローゼットよ。胸に詰め物して、それっぽく化粧すれば何とかなるわよね」
「ちょっと!も…っ、わあああっ!!」




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王子×シンデレラ シンデレラパロディ①

俺の住んでいる国は、小さいながらも自然に恵まれていて、ご近所トラブルはあっても大きな争い事は滅多に起きない様なとても平和な所だった。
都会からすれば、この国の時間はとてもゆっくり流れている様に見えるだろう。
そんな毎日毎日をのんびりと過ごしている国民達の間に、衝撃が走ったのは数ヶ月前の事。
“当国の第一王子の妻となる者を募る”
国のトップである国王が、そんなチラシを、国中にばら蒔いたのだ。
貴族階級の人間が、見合いで伴侶を見つけようとする事はそんなに珍しい事ではない。
しかしその対象が俺達の様な平民にも向けられるというのは、異例の事だった。
しかも花嫁候補の条件が“性格が良い女”だけという手の広げっぷりに加え、その第一王子というのが、背が高くとろける様な甘いマスクの持ち主で、いつでも優しく爽やか、国民から愛される齢二十二歳のイケメンときた。
さぁ大騒ぎだ。
自分の娘を、自分の姉妹を、自分の母を、中には自分の嫁さえ嫁がせようと、応募する本人以上に周りの家族も色めき立っていた。
年頃の娘さんから、まだおしめも外れていないのでは無いかと疑わしい幼女に、腰の曲がったシワクチャのお婆ちゃん、性別が女かどうかさえ怪しい人も。
穏やかな町並みが一変。美容室や服屋は朝から晩まで女磨きに精を出す女性達で溢れ返った。
露店では惚れ薬なる怪しい液体まで売り出される始末。
お見合いは選考制で、写真で選ばれた百人だけが、王子と直接対面するお見合いパーティー兼舞踏会へと招待されるのだ。
小さな国とはいえ、何万という数の応募の手紙が送られたはずだ。それを百人に絞るのは相当な労力がいっただろう。
そうして、選ばれた百人の元へ招待状が届いたのが、数週間前の事。

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「わたし舞踏会には行かないわ」

義姉はそう言い、国王のサインが入った封筒を、テーブルの上へ雑に放った。
それは、あの、国の女性達が喉から手が出る程欲しがっていた、お見合い舞踏会への招待状。
俺は部屋の掃除をする手を止め、慌てて義姉の方へと歩み寄った。

吸血鬼×医者(声のみ)②

威圧感のある巨体のオヤジと酒臭い厚化粧のババァの夫婦。
血液の相性が良いからと、小さい頃からその夫婦のババァの方から血液の提供を受けていたのだが、最初からアイツらは頭がおかしかった。
俺がババァから血を吸っている場面に出会そうものなら、オヤジは途端に嫉妬の炎を燃やして、俺の首根っこを掴み床に放り投げたり壁に叩き付けたり。
ババァはババァで気持ち悪いくらいに色気付いてベタベタベタベタとよく俺の体を触っていた。
暴力を振るわれたり性的虐待を受けた後に、二人は必ず『この事を誰かに言ったらお前の人生をめちゃめちゃにしてやる』と、俺の顔にナイフを押し付けながら言った。
俺の両親は外面の良いこの夫婦のことをすっかり信用しきってしまっていたし、仕事が忙しい両親とは元々そんなに顔を合わせなかった事もあり、全く俺の異変に気付いてはくれなかった。
元々仲も良くなかったから、助けを求めようとも思わなかったが。
夫婦の暴力はゆっくりとエスカレートして行き、俺が中学校入学と同時に寮へ入る頃にはピークを迎えた。
殴られて歯は欠ける、痣は治る前に新しいものが上書きされる、ババァには毎日の様に性器を弄ばれ、無理矢理変な薬を飲まされ勃起させられた。
血は欲しかったが、耐えきれない。
俺は中学校卒業と同時に、そいつらをめちゃくちゃに殴って家を飛び出した。
夫婦から奪った数十万円を懐に詰め込んで、丁度ホームに止まっていた電車に、行き先も確認せずに飛び乗った。
それから今日まで、ずっと家には帰っていない。
大体は、公園や廃虚で夜を過ごし、猫や犬や動物を見つければそれを捕まえ血を吸った。
しかし動物は、体が小さい分、自分の求める量を吸い取ってしまえば、簡単に殺してしまう。
だから、毎日一口二口か、どうしても我慢出来ないときは何匹も動物を捕まえて吸血行為を繰り返した。
だが人間よりも摂取する栄養が少ない動物の血では、いくら吸っても満たされなかった。
しかし、どうしても、人間に頼るのは嫌だった。

(面倒な体、生まれ変わったら、もっとマシな人生になるだろうか)

ゆっくりと瞼が落ちていく。
視界はもう何も映さない。
耳も、モスキート音の様な耳鳴りばかりしか聴こえなくなってしまった。

「…どうしたの」

そんな中、一瞬誰かの声が聞こえた気がしたけれど
目を開けて確かめる気力も体力もなくて、ただただ自分の体が動かなくなっていくのを他人事の様に感じていた。



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